20代でマイホームを購入する人が増え、「若いうちに家を買う」というライフステージの新常識が生まれつつあります。かつては家を持つのは結婚して子どもができてから、30代後半以降というイメージもありました。しかし近年の調査では、20代世帯の持ち家率は2023年に35.2%と過去最高を記録し、7年連続で上昇しています。実に20代の3世帯に1世帯以上がマイホームを所有している計算で、20年前(約18%程度)と比べても大きく伸びています。この背景には若年層の価値観変化や経済環境の影響があり、「家を買うのは若いほうがメリットがある」と感じる層が増えていることが指摘されています。

多くのZ世代(現在の20代前半~後半)は、家を「人生を楽しむための大切な基盤」と捉え始めています。ある調査では、Z世代の約92.7%が**「早いうちに住宅を購入するメリットがある」と回答し、この傾向は上の世代より顕著でした。若者の間で「マイホーム=資産形成の一環」という認識も広がっています。不動産価格が上昇基調にある近年、「ずっと賃貸で家賃を払い続けるより、早く買ったほうが得だ」と考える人が増えており、住宅購入を将来設計に入れている若者は約7割にも上ります。親世代がバブル崩壊を経験し「不動産=リスク」と捉えがちだったのに対し、Z世代は上昇する不動産市場を見て育ち、投資や資産運用の知識も豊富なため、住宅も資産として前向きに捉える傾向があります。超低金利が長く続く金融環境も追い風となり、20代のうちから「買えるときに買っておこう」と考える人が増えているのです。

賃貸 vs マイホーム:20代で考える住宅費と資産形成

若い世代にとって、賃貸住宅に住み続けるか思い切って持ち家を購入するかは大きな悩みどころです。まず賃貸と購入それぞれの特徴を整理してみましょう。賃貸住宅のメリットはなんといっても身軽さです。20代は収入や勤務地、ライフスタイルが将来大きく変わる可能性がありますが、賃貸なら転勤・転職や結婚・出産に合わせて自由に引っ越しできる点は魅力です。一方で家賃を払い続けても資産は一切残らないのが賃貸のデメリットで、同じ支払い額なら購入してローンを返済したほうが資産が手元に残るケースもあります。実際、「賃貸の家賃は100%コスト」であるのに対し、住宅ローンの返済は支払いを続ければ自分の資産(持ち家)として残るため、大きな違いがあります。また購入後は住宅を売却して現金化したり、人に貸して家賃収入を得たりといった柔軟な選択肢も生まれます。

では、20代でマイホームを購入する場合、どんなメリット・デメリットがあるでしょうか。以下に若いうちに家を買う主なメリットと注意点を整理します。

20代で家を買うメリット

  • 定年前にローンを完済できる: 住宅ローンの返済期間は最長35年が一般的です。20代で借入を開始すれば、60代前半までに完済できる計算になり、老後の生活にローンを持ち越さずに済みます。例えば28歳で35年ローンを組めば63歳で完済しますが、40歳で買うと75歳までローンが残ってしまいます。若いうちに返済を始めれば定年までに住宅費の支払いを終えられるのは大きな安心材料です。
  • 長期ローンを組めて月々の負担を抑えられる: 若年層ほど返済期間を長く確保できるため、毎月の支払額を無理なく設定しやすいです。金融機関にもよりますが、一般に年収の30〜35%以内を返済の目安とする「返済比率」という基準があります。20代なら35年ローンで月々8〜10万円程度の返済計画にすれば、年収400万円前後(平均的な20代後半の収入)でもマイホーム購入は十分可能といえます。借入期間を長く取れる分、若いうちでも手の届く価格帯の住宅を購入しやすいでしょう。
  • 将来支払う家賃を減らせる: 賃貸の場合、家を買うまでの期間ずっと家賃を払い続けることになります。逆に言えば、早く購入するほど家賃を支払う期間が短くなり、その分の支出を節約できるわけです。生涯で見れば何百万〜何千万円という家賃を「貯金」できる計算になり、若いうちに買うことは長期的な資産形成に有利とも言えます。購入後は毎月の支払いが家賃ではなく持ち家のローンになるため、支払いが将来の自分の資産として積み上がっていく点も精神的な安心感につながるでしょう。

20代で家を買うデメリット・注意点

  • ライフプランの不確定要素が多い: 20代は独身から結婚、転職、出産など人生の大きな転機が次々と訪れる時期です。このタイミングで家を買うと、その後に想定外のライフイベントが起きたとき住み替えや転居が難しくなる可能性があります。例えば急な転勤や家族構成の変化で現在の家が合わなくなっても、持ち家だと簡単には引っ越せません(売却や賃貸に出す手間が生じます)。将来計画の不透明さは若さゆえのリスクと言えるでしょう。
  • ローン返済期間が長く利息総額が増える: 若くローンを組めば支払い期間も長期になります。当然ながら支払う利息の総額は増加します。超低金利時代とはいえ、35年もの長期にわたり利息を払い続ける負担は無視できません。また金利が将来上昇すれば返済額が増えるリスクもあります。若いうちは月々の負担を抑えられる反面、長期間にわたる利息の支払いも計画に入れておく必要があります。
  • 収入が少なく借入可能額が限られる: 一般的に20代は30~40代に比べて年収が低く、自己資金も潤沢ではありません。そのため金融機関から借りられるローン額に限りがある場合が多いです。希望のエリアや広さの物件があっても、収入条件でローン審査に通らなければ購入できません。親から資金援助を受けたり、共働きでペアローンを組むなど工夫が必要なケースもあります。
  • 住まいの選択肢が狭まる: 購入を急ぐことで、理想の家づくりや物件選びにおいて妥協を強いられる可能性もあります。たとえば「子どもはまだ先だけど将来を考えて郊外の広い家を買ったら、数年後に転勤になってしまった」など、若いうちは将来像が定まっていない分、ミスマッチが起きることも。また資金的余裕が少ない状態で急いで建売住宅を買った結果、「もっと頭金を貯めて注文住宅にすればよかった」と後悔する例もあります。若さゆえに経験や資金が不足し、ベストな選択肢を逃すリスクがある点には注意しましょう。

こうしたメリット・デメリットを踏まえ、20代でのマイホーム購入は計画的な資金計画将来の見通しを持って臨むことが重要です。住宅ローン減税(借入残高に応じた所得税控除)や自治体の補助金など若年層向け支援策も活用しつつ、無理のない予算設定を心がけると良いでしょう。また、親から資金援助を受ける場合は贈与税の非課税枠(住宅資金の特例で最大1,500万円超が非課税になる制度)の活用や、親を連帯保証人にする親子リレー返済などの制度も検討できます。金融知識を身につけ、複数のローン商品を比較することで、20代でも賃貸同等の負担でマイホームを手に入れることは十分可能なのです。

都市部 vs 地方:若者の住宅事情と選択肢

同じ「家を買う」といっても、都会で買うか地方で買うかによって事情は大きく異なります。20代で住宅購入を考える際、都市部と地方それぞれのメリット・デメリットを知っておくことも大切です。

都市部で家を買う場合のメリットとしてまず挙げられるのは、物件の資産価値が落ちにくいことです。都心の家は郊外に比べ価格は高いものの、将来転勤などで手放すことになっても大きく値崩れしにくく、高く売却または賃貸に出しやすい傾向があります。便利な立地ゆえに需要が常にあり、資産として安定しやすいのです。また都市部は交通や買い物の利便性が高く、娯楽施設や病院・学校も充実しています。通勤時間を短縮できるため時間を有効活用できますし、教育面でも学校や習い事の選択肢が豊富で子育てもしやすい環境と言えます。一方、都市部のデメリットは何より住宅価格を含め生活コストが高い点でしょう。家そのものが高額なうえ、日々の物価や駐車場代などあらゆる費用が郊外より割高になります。同じ予算でも地方に比べ狭い物件しか買えないケースも多く、「便利さ」と引き換えに経済的負担の大きさは覚悟しなければなりません。また街には人が溢れているため、人混みや騒音が苦手な人にはストレスを感じる環境かもしれません。

一方、地方や郊外で家を買う場合のメリットは、なんといっても不動産価格が手頃で広い家を持てる点にあります。例えば同じ予算でも、地方なら庭付き一戸建てや広めのマンションが購入できることも珍しくありません。自然が多く静かな環境で、家族が増えてものびのび暮らせるのは郊外ならではの魅力です。子どもを戸建ての庭や近所の公園で遊ばせたり、ゆったり子育てできる環境を求めて地方での新築を選ぶ若い世代もいます。また都心から距離がある分、オンとオフを切り替えたメリハリのある生活が送りやすいという声もあります。反対に郊外・地方のデメリットは、やはり通勤・交通の不便さに尽きます。都心に職場がある場合、毎日の通勤に時間がかかり、電車やバスの本数も少ないため通勤ストレスが大きくなりがちです。終電を逃すと帰宅が困難、といったハプニングも起こりえます。車に頼る生活になればガソリン代や駐車場代もかさむでしょう。都市部に比べ初期費用は抑えられても、時間的・金銭的コストが見えにくい形で発生する場面が多々あるのが地方暮らしの難点です。

なお、統計的には地方のほうが20〜30代の持ち家率が高い傾向があります。住宅展示場協会の調査によれば、戸建分譲住宅(建売住宅)の購入者は地方ほど若年層が多く、都市部では購入者の平均年齢が高めになるといいます。都市圏では若い世代は賃貸暮らしを続け、ある程度年齢を重ねてから中古マンションを購入するといったケースも多いようです。このように、自分のライフスタイルや将来設計に照らして、都市と地方どちらが合うかをじっくり検討することも、若い世代の住宅購入では重要と言えるでしょう。

結婚・子育て・リモートワーク…ライフイベントが与える影響

住宅購入のタイミングには、個人のライフイベントが大きく関わります。20〜30代は結婚や出産、働き方の変化などライフステージが大きく動く時期です。これらが「いつ家を買うか」という判断にどう影響しているのか、主なポイントを見てみます。

結婚を機にマイホーム?パートナーとの生活設計

結婚やパートナーとの同居は、多くの人にとってマイホーム購入を現実的に考え始める契機となります。ある調査では、「パートナーとのライフステージが変わる時(結婚や出産)」を住宅購入検討のタイミングに挙げた人がZ世代では43.0%と最も多く、同調査のX世代(40〜50代)より13ポイント以上高かったという結果が出ています。結婚によって世帯収入が増えローンを組みやすくなることや、二人の新生活にふさわしい住まいを持ちたいという思いが背景にあるのでしょう。「結婚したら賃貸ではなく持ち家が欲しい」というのは昔から根強い意識で、特に地方では結婚=家を建てるタイミングと考える人も少なくありません。実際に、不動産会社のインタビューでも「一人では決められないので両親と相談しながら決めた」という20代購入者の声があり、家族の後押しや支援もあって若いうちに購入に踏み切るケースが見られます。

一方で、結婚前に単身でマイホームを買う人も増えてきています。特に都心部では結婚の有無に関係なく「賃貸の家賃がもったいないから」と20代でマンションを買う人もいます。例えば都内勤務の20代女性Yさんは、職場の寮を出るタイミングで希望条件に合う賃貸を探しましたが、理想の立地や間取りを満たす物件は家賃が非常に高額になると分かり、両親の勧めもあって購入を決意しました。結果的に「賃貸では得られない好立地と広さの部屋を、月々の支払いも無理なく手に入れられた」と満足しており、独身のうちに資産を持つ選択肢が浸透しつつあることを伺わせます。

子育てを見据えた住環境づくり

出産や子育ては、住宅購入を大きく後押しするライフイベントです。子どもが生まれると手狭なアパートでは不便を感じたり、近所への騒音にも気を遣うようになります。そのため「子どもが小さいうちに伸び伸び育てられる環境が欲しい」と考えて家探しを始める20代夫婦も多いです。事実、ある20代のご夫婦は第一子の誕生を機に賃貸アパートから新築戸建ての購入を決断しました。元々住んでいたアパートでは下の階への生活音が気になる状態で、「赤ちゃんが泣いたり走り回ったりするこれからを考えると住み続けるのは難しい」と判断したといいます。ご主人が幼少期を戸建てで過ごしたこともあり「どうせ買うなら戸建てがいい」との強い希望で、出産前に建売住宅を購入。お子さんが生まれた現在は、「泣き声や足音を気にしなくていい安心感は大きなメリット」とマイホームでの子育てを満喫しています。

また、子どもの教育面でも早めの持ち家には利点があります。例えば30代後半まで購入を待つと、お子さんが幼稚園・小学校に通っている場合に転園・転校の問題が発生します。新居のエリアによっては「環境を変えたくないから子どもが卒業するまで購入を待つ」という選択肢も出てきてしまい、その間も家賃を払い続けることになります。実際、子どもが入園前〜就学前までに住む場所を決めておくと転校などの心配がなく、物件選びの幅も広がると指摘されています。将来子育てを見据えるなら、子どもが小さいうち(あるいは生まれる前)に広めの持ち家を用意しておくと安心と言えるでしょう。特に地域によっては学区の問題で住む場所を簡単に変えられないケースもあるため、「子どもが小学校に上がるまでに家を買いたい」と考える親御さんは多いです。逆に子育てが落ち着くまでは無理に買わず、柔軟に環境を変えられる賃貸のほうが良いと考える人もおり、このあたりは各家庭の方針によります。

実際に、若い家族が地方に移り住んで自然豊かな環境で子育てをするケースも見られます。広い庭や公園で子どもを遊ばせたり、実家の近くで祖父母の手助けを得ながら育児できるのは、持ち家だからこそ得られる安心感でしょう。20代で住宅を持つことは、そうした「家族のための生活基盤」を早めに築くことでもあります。もちろんマイホームは維持費や修繕などの責任も伴いますが、子どもにとって安心できる住まいを用意する意義は大きく、多くの若い世帯がそこに魅力を感じています。

リモートワーク普及による住まい選びの変化

近年、働き方の変化も若者の住宅観に影響を与えています。特に2020年以降のリモートワーク(在宅勤務)の普及は、「都心に住む必要性」を見直すきっかけとなりました。テレワークを経験した人の中には「職場に通わなくても仕事ができるなら、都会を離れて広い家に住みたい」と考える人も出てきました。実際、コロナ禍以降に地方移住した若者がメディアで紹介される機会も増え、大都市から離れた地域での暮らしに注目が集まりました。

ある調査では、「通勤時間が1時間を超える郊外や地方への移住も許容できる」若者が全体の約40%にのぼったと報告されています。その理由として最多だったのは「住宅を安く買えるから」ですが、次点で「テレワークで通勤の必要がないから」という回答がほぼ同数挙がり、価格面と並んでリモートワーク環境が大きな後押しとなっていることがわかります。社会全体でリモートワークやノマドワーカーが増えた結果、家探しの条件も「職場への近さ」だけでなく「広さや環境重視」へとシフトしつつあると言えるでしょう。

もっとも、地方移住には魅力だけでなく不安も伴います。知らない土地での生活や仕事への懸念から、「勢いで移住したものの自分に合わなかったらどうしよう」と踏み切れない若者も少なくありません。そのため国や自治体も移住支援策に力を入れており、地域おこし協力隊制度など若者に地方での仕事・暮らしを体験してもらう取り組みが注目されています。リモートワークの継続可否や将来の転勤リスクなどを見極めつつ、「地方に家を買う」という選択肢も20代の中で現実味を帯びてきました。都会の狭い賃貸で在宅勤務するストレスから解放され、広いマイホームで快適に仕事と生活を両立したいという願いは、これからの若い世代の住宅トレンドの一つと言えるでしょう。

まとめ:20代で家を買うという新たなライフステージ

20代でマイホームを持つという選択肢は、もはや特別なケースではなくなりつつあります。背景には、若年層の価値観の変化や経済状況の後押しがあり、「家は欲しいときが買い時」という考えが浸透してきました。もちろん若いうちの住宅購入には不確定要素も多いですが、それ以上に得られるメリットや将来の安心感が若者たちの背中を押しています。実際、ある調査では88.7%の人が「住宅の早期購入にはメリットを感じる」と回答し、Z世代ではその割合がさらに高かったと報告されています。

人生100年時代と言われる今、20代で家を買えば何十年にもわたって自分や家族の暮らしを支える「拠点」を持てることになります。そこでは家族との幸せな時間を存分に楽しんだり、将来の資産形成に役立てたり、様々な可能性が広がるでしょう。住宅購入は一生に一度ではなく、ライフステージに合わせて住み替えていくという柔軟な価値観も若い世代に芽生えています。20代での最初のマイホーム取得は、その第一歩と言えるのではないでしょうか。

最後に大切なのは、焦らず情報収集をすることと、自分達のニーズを明確にすることです。家は人生で大きな買い物ですが、「買えるかな?」と悩んでいる時間も経験のうち。専門家の意見を聞いたり住宅展示場に足を運ぶなどして具体的なイメージを掴めば、20代でも手の届く現実的な選択肢が見えてきます。マイホーム購入は決して早すぎることはありません。あなたの20代という貴重な時期を、新しいライフステージの可能性としてぜひ前向きに捉えてみてください。きっと「若いうちに家を買ってよかった」と思える日が来るはずです。