■ はじめに──社会保障はすでに“限界”なのか?
「年金は本当にもらえるのか?」「健康保険料が高すぎる」「介護制度は機能するのか?」──こうした不安はもはや一部の高齢者に限らず、現役世代や若者にまで広がっている。
実際、2025年には団塊の世代が75歳を超え、いよいよ「超高齢社会」が現実のものとなる。社会保障費は年々膨張し、国家予算の約3割がこれに費やされている。年金・医療・介護・子育て支援──私たちの暮らしを支える制度は、本当に維持可能なのか?
本稿では、「社会保障制度の破綻リスク」と「それを支える財源の現実」を、少子高齢化という人口構造の変化とともに読み解く。
■ 社会保障制度とは何か──4つの柱と目的
まず基本を押さえておこう。日本の社会保障制度は、以下の4本柱で構成されている:
- 年金制度:老後の所得保障(国民年金・厚生年金)
- 医療保険制度:病気やけがの治療費を保障(健康保険・国保)
- 介護保険制度:高齢者の生活支援と介護サービス
- 福祉・子育て支援:児童手当・生活保護・障害者福祉など
これらは「世代間の支え合い」によって成り立っている。現役世代が保険料や税金を払い、高齢者や子ども世代を支えるという循環だ。しかし今、この構造そのものが危機に瀕している。
■ 少子高齢化がもたらす“逆転の構造”
2024年時点の日本の高齢化率は29.1%、つまり国民の約3人に1人が65歳以上という状態だ。一方、15歳未満の人口は約11%であり、「支える側」より「支えられる側」の方が多いという“逆転現象”が起きている。
さらに問題なのは、単に高齢者が増えるだけでなく、「75歳以上の後期高齢者」の比率が急増していることだ。医療・介護サービスの需要が一気に高まる一方で、労働力人口は年々減少。支える人が減り、支えを必要とする人が増える──これが日本の社会保障に突きつけられた構造的な危機である。
■ 年金制度は“破綻”するのか?
最も多くの人が不安を感じているのが年金制度だろう。「年金はもうもらえない」といった悲観論がSNSでも広がっている。
◯ 現実には「破綻」はしない、ただし水準は下がる
厚生労働省は、年金制度について「制度的に破綻することはない」と明言している。これは、「自動調整(マクロ経済スライド)」という仕組みによって、保険料収入が減っても年金支給額を抑制して帳尻を合わせるからだ。
つまり、年金は出続けるが、「金額は減る」ことが前提になっている。とくに若い世代では、将来の年金が生活費の主軸にはなりにくいという現実がある。
◯ 公的年金+自助努力の「二階建て」モデルへ
企業年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、自助努力による「もう一つの老後資金」が推奨されている。これは公的年金の「補完」ではなく、もはや「必須」とも言える。
■ 医療・介護制度の持続性──予防と費用負担の転換期
◯ 医療費は今後も右肩上がり
現在の医療費は年間約45兆円(2023年度)。そのうち75歳以上の高齢者が使う医療費が**全体の約36%**を占めている。
これに対して保険料収入は年々不足し、国費(税金)による穴埋めが増加中だ。さらに、今後の技術進歩により医療の高度化が進めば、一人あたりの医療費はさらに増える可能性がある。
◯ 「自己負担割合」の見直し
政府はすでに75歳以上の一部について医療費の自己負担を1割→2割に引き上げている。今後、現役世代にも負担増が及ぶ可能性が高い。
◯ 予防医療へのシフトがカギ
制度の維持には「病気になったら治す」から「病気にならない仕組みづくり」への転換が不可欠だ。健康経営、ヘルスチェック、食生活改善など、“医療費削減型社会”への誘導が始まっている。
■ 財源のリアル──“次の一手”はあるのか?
社会保障を維持するには、結局は「財源」が必要だ。以下に現在の主な課題を整理する。
◯ 消費税増税は避けられない?
2025年現在、消費税は10%。社会保障財源としてその役割は大きいが、すでに「税率を上げても景気が冷え込むだけ」という声も強い。ただし、財政審議会などでは15%への引き上げが中長期的には必要とする試算も出ている。
◯ 所得の再分配が機能していない
現役世代の中でも、低所得者層ほど社会保険料の負担感が重くなっている。これは逆進性の問題とも呼ばれ、格差の拡大につながるリスクがある。税と社会保険の「統合的改革」が必要とされている。
◯ 資産課税や金融課税も議論へ
一部の専門家からは、「高齢富裕層の金融資産に対する課税」や「相続税の拡充」なども提案されている。だが政治的な抵抗も大きく、実現には時間がかかると見られる。
■ 「破綻」とは何を意味するのか?
そもそも、「破綻」とは何を指すのだろうか。以下の2つの意味で捉える必要がある。
意味 | 内容 |
---|---|
制度的破綻 | 年金や医療が給付不能になる事態(→避けられる) |
機能的破綻 | 給付水準が低下し、生活保障として役に立たなくなる |
現在問題視されているのは後者、つまり「機能的破綻」である。制度は形として残っても、「守られる感覚」が薄れてしまえば、それは信頼の崩壊を意味する。
■ 結論──持続可能性は“設計”し直すしかない
日本の社会保障制度は、制度的には破綻しないよう設計されている。しかし、「機能的に意味がある制度」であり続けるには、抜本的な再設計が求められている。
- 年金:支給開始年齢や額を柔軟に設計し、自助努力と連携
- 医療:予防中心へ移行し、高齢者負担を段階的に見直す
- 介護:地域包括ケアやAI活用などで人手不足を補う
- 財源:消費税・資産課税・再分配の再構成
社会保障制度は単なる「福祉」ではない。それは**国民の信頼と連帯を支える社会の“骨格”**である。破綻させないためには、政治の決断と市民の覚悟、その両方が求められている。