2025年6月14日現在、イスラエルとイランは、もはや軍事的な応酬を超えた“戦争状態”に突入したと見て差し支えない。イスラエルの戦闘機によるイラン国内の核関連施設への大規模空爆に始まり、イランは報復として多数の弾道ミサイルと無人機を発射し、テルアビブやハイファなど複数の都市を攻撃した。これにより、中東は1973年の第四次中東戦争以来、最も重大な局面を迎えている。

なぜ今、戦争が始まったのか──背景にある緊張の蓄積

イスラエルとイランの対立は今に始まったことではない。イランのイスラム革命(1979年)以降、両国は互いに国家としての正統性を認めず、代理戦争やサイバー攻撃を通じて対立を続けてきた。

特に近年では、イランの核開発が加速し、ウラン濃縮度が兵器レベルに迫る中で、イスラエルの「先制攻撃論」が公然と語られるようになった。国際原子力機関(IAEA)がたびたび警告を発し、欧米諸国が制裁と交渉を交互に繰り返してきたが、根本的な進展はなかった。

そして今回、イスラエルはついに「国家存続のための自衛」として空爆を実行。イランはこれに対し、「国家の尊厳を守る戦争」として報復攻撃を選択し、軍事衝突は避けられない段階に入った。

テルアビブとテヘラン──都市への直接攻撃という異常事態

今回の軍事衝突が従来と異なるのは、両国の中枢都市が直接攻撃対象となったことである。これまでの代理戦争──シリア、レバノン、イラクなどを舞台にした戦闘とは異なり、今回は国家の“心臓部”が狙われた。

  • テルアビブ:イランのミサイルが到達し、市街地で爆発。インフラと民間人に被害。
  • テヘラン:イスラエルの無人機が首都圏に侵入、軍事施設付近で複数の爆発音。

両国とも「全面戦争は望まない」と口では言いながら、実際には国民感情を焚きつける形で戦争を継続している。なお、イスラエルの公式な首都はエルサレムだが、イラン側が攻撃対象に選んだのはテルアビブである。これは、エルサレムがイスラム教・キリスト教・ユダヤ教の三宗教すべてにとっての聖地であり、特にイスラム教におけるアル=アクサ・モスクを有する宗教的要衝であるため、攻撃対象とすることは宗教的にも国際的にも大きな反発を招くことをイラン側が避けたとみられる。これは単なる“軍事作戦”ではなく、国家間の“報復と威嚇の連鎖”であり、外交的手段では収拾が困難になりつつある。

他国の関与──「第三次世界大戦前夜」の様相も

中東地域は、地政学的に極めて複雑な構造を持つ。

  • アメリカ:イスラエルの同盟国として表向きは支持。ただし地上戦には関与したくないというジレンマ。
  • ロシア:イラン寄りの立場を示しつつ、プーチン大統領は両首脳と個別に電話会談。調停を模索か。
  • 中国:表向き中立だが、経済的利権確保と米国の影響排除を狙う姿勢。
  • サウジアラビア・UAE:湾岸諸国は地域不安定化を恐れつつも、イランの覇権主義には警戒感を強めている。

こうした多国間の立場が交錯する中で、万一イスラエルが再び核施設を攻撃し、イランがホルムズ海峡封鎖や湾岸諸国への攻撃を実施すれば、事実上の“地域大戦争へと発展する可能性がある。

日本が注視すべきポイント──これは遠い国の出来事ではない

日本にとって、この戦争が「他国の内輪揉め」で済まされない最大の理由は、エネルギー安全保障の危機である。

  • 中東産原油の8割超がホルムズ海峡を通過
  • 原油・LNGの価格高騰が家計と企業に直撃
  • 航空・輸送業界の混乱、物価上昇によるインフレ加速

さらに、国際秩序の不安定化は日本の輸出依存型経済にも影響を与える。仮に米国が参戦し、中国が動けば、日本の外交と安全保障の軸も問われる事態となる

結論──この戦争は“再来”ではなく“今、進行中”である

「中東戦争再来か?」という問いは、もはや過去形でも仮定法でもない。我々が今、目の当たりにしているのは、“代理戦争”でも“空爆作戦”でもない、国家と国家が直接衝突する現実の戦争である。

外交の失敗、抑止力の破綻、情報戦の錯綜……そのすべてが重なった結果、戦火は再び中東を飲み込みつつある。

そしてその炎は、遠く離れた日本の暮らしや安全保障にも静かに迫っている──。