2025年夏、日本外交はかつてない孤立の中にある。石破茂首相率いる新政権は、就任からわずか数カ月で外交方針の大転換を打ち出したが、その余波は国内外に波紋を広げている。特に注目されるのは、6月に予定されていた日米2+2(外務・防衛閣僚協議)とNATO首脳会議の両方を欠席したことである。この決定は、日本の安全保障政策や経済交渉にまで深刻な影響を及ぼしており、日米間の関税交渉も膠着状態に陥ったままだ。

日米2+2を欠席──「自主外交」のアピールか、リスクか

石破政権は、岸田前政権の路線を「対米依存的すぎる」と批判し、「真の自主外交」への転換を掲げてきた。その象徴的な一手が、6月のワシントンで開催された日米2+2の欠席であった。従来であれば、自衛隊と米軍の連携強化や、台湾有事を想定した抑止力の強化が主要議題となるこの会議に、日本側の外相・防衛相が一切出席しなかったことは異例中の異例だ。

石破首相は「我が国の主権と国益を最大化するため、形式的な同盟儀礼よりも実質的な政策判断を優先する」と述べたが、米政府高官は非公式ながら「失望と懸念」を表明。特に国防総省関係者からは「東アジアの安全保障に対する日本の責任放棄」といった声も漏れ聞こえている。

NATO首脳会議も見送り──欧州との距離を置く狙い

さらに追い打ちをかけたのが、NATO首脳会議の欠席である。日本は2022年以降、アジア・パートナーとしてNATOに継続的に招待され、ウクライナ支援や対中戦略の調整などで存在感を高めてきた。

だが、石破政権はこの流れにも疑問を呈し、「欧州の紛争に関与することが、東アジアの平和と何の関係があるのか」と公言。NATOとの協調よりもASEAN・インド太平洋諸国との独自対話を優先する姿勢を見せている。これに対し、欧州メディアは「日本はルールに基づく国際秩序の支持国から距離を置きつつある」と報道している。

関税交渉の膠着──自動車・農産物で対立

外交の迷走は経済にも及んでいる。とりわけ日米間の関税交渉が進展を見せていないことは、日本企業にとって大きな懸念材料となっている。トランプ政権再登板後、日本車への関税強化が再燃する中、日本政府は「国内産業保護のため」として米国産牛肉やトウモロコシに対する関税撤廃に慎重な姿勢を貫いている。

これに対し、米通商代表部(USTR)は「日本が交渉のテーブルに着こうとしない」と強い不満を表明。6月中旬に予定されていた実務者協議も延期となり、双方の溝は深まる一方だ。

一方、日本の農業団体は石破政権の姿勢を歓迎しており、「地方経済を守る上で評価できる」との声もある。だが、輸出依存度の高い自動車業界からは「早期の合意がなければ対米輸出に深刻な打撃を受ける」として強い危機感が示されている。

「孤立」をどう乗り越えるか──石破政権の課題

このように、石破政権の「自主外交」は、少なくとも短期的には日本を国際舞台から孤立させつつある。もちろん、外交には形式だけでなく実質も必要であり、同盟関係の見直し自体が悪ではない。しかし、主要な国際会議を連続して欠席することが、日本の影響力低下につながる可能性は否定できない。

また、同盟国からの信頼低下は、いざというときの安全保障の空白を生むリスクとも直結する。現実に、台湾海峡や朝鮮半島での有事リスクが高まる中、日本が意思疎通の場から自ら退いていることは、極めて危うい判断にも映る。

さらに、経済面でも外交的後ろ盾を失えば、交渉力は著しく低下する。中国や韓国との関係が改善していない現状で、日米関係まで冷え込めば、経済的孤立は現実味を帯びる。

今後の展望──理念と現実のバランスが問われる

石破首相の信念は、政治家として一貫している。「対米追随からの脱却」や「主権国家としての自立外交」は、日本が抱えてきた課題でもある。しかし、理念と現実の折り合いをどうつけるかが、今まさに問われている。

もし石破政権がこの路線を貫くのであれば、同盟国に代わる新たな信頼関係の構築が急務となる。たとえば、ASEAN諸国やインドとの多国間協調、国連を通じた価値外交の強化、あるいは中立的な安全保障機構への関与といった戦略的ビジョンが必要だ。

一方で、米国側にも「トランプ再登板による同盟国軽視」があるのも事実であり、石破政権の姿勢を一概に非難することもできない。問題は、日本が国際社会にどのような価値観を提示し、どのような形で信頼を勝ち得ていくかである。

日本の進路はまだ定まっていない

石破政権の外交転換は、波紋を広げながらも、いまだ「実験段階」にある。日米2+2とNATOの欠席、そして停滞する関税交渉──これらは単なる戦術的ミスなのか、それとも大戦略の一環なのか。

いま日本に必要なのは、国民に対する明確な説明と、世界に向けた一貫したメッセージである。孤立を恐れず、自主を貫くのであれば、相応の準備と覚悟が求められる。

その覚悟があるのか──石破政権の真価は、これから問われていくことになる。