はじめに:なぜ日本では「家」が資産になりにくいのか
日本において、「家を買う=資産を持つ」という感覚は欧米に比べて希薄である。とくに中古住宅の評価が著しく低く、築年数が経過するごとに資産価値はほぼゼロに近づいていく。ところが、東京などの都市部では不動産価格が高騰し、中古住宅でも高値で売買される例も増えている。この現象は何を意味しているのだろうか。
日本の不動産評価制度の「減価一辺倒」
日本では木造住宅の法定耐用年数が22年とされており、築20年を超えると資産価値がゼロに近づく。これが中古市場での価格下落を正当化する根拠とされてきた。築年数が経過すれば劣化するとする考え方は、安全性を重視する一方で、リフォームや維持管理の概念を軽視している面もある。
欧米諸国では、建物自体が価値を持ち続け、メンテナンスによって価値を保持・向上させる文化が定着している。日本の「スクラップ・アンド・ビルド」型の住宅観は、資産形成という観点では非合理的だ。
東京だけが例外? 中古住宅の価格が下がらない現実
一方、東京23区を中心とした都心部では、中古マンションの価格が新築を上回る例も出てきている。2025年時点で、都内の中古マンション平均価格は前年比で約6%上昇し、築10〜20年の物件でも高値で取引されるケースが相次いでいる。
これは、立地のプレミアム性が建物自体の減価を打ち消している構図だ。とくに再開発エリアや駅近物件は、建物が古くても需要が集中する。つまり「家」ではなく「場所」に資産価値があると言える。
地方では売れない、都心では高すぎる──二極化の現実
地方都市や郊外では、築20年以上の住宅が数百万円以下で売りに出されており、買い手がつかないケースも少なくない。空き家率も年々上昇し、2023年には全国で約14%に達した。こうしたエリアでは、家を「持つ」ことがむしろ負債になりかねない。
一方で、東京圏では「住宅価格の上昇が止まらない」という声が続いている。世帯年収が800万円を超えても住宅ローンが組めないという相談が増えており、特にファミリー層には深刻な問題だ。
なぜ日本では中古市場が育たないのか
1つは情報の非対称性が大きい。中古物件の状態や履歴が明確に公開されておらず、買い手が安心して判断できない。また、不動産会社による新築優遇の販売慣行や、税制上の新築優遇措置も影響している。
さらに「新築信仰」ともいえる文化的背景が根強く、築年数だけで判断されやすい風潮が中古市場の成熟を妨げている。
資産価値としての住宅を見直すべき時代
少子高齢化が進み、全国で住宅が余り始めている今、「建てては壊す」時代は終わりつつある。欧州型の「資産としての住宅評価」を導入し、リノベーションや再流通に力を入れる政策が求められている。
住宅が「住むための道具」から「次世代に残す資産」へと転換することで、家の価値観は大きく変わるはずだ。
東京の高騰が見せる“希望”と“危うさ”
東京のように、中古住宅でも価値を保ち、売買が活発な地域は、ある意味で日本の中古市場の可能性を示している。だがその一方で、地方との格差、空き家問題、過剰なローンリスクといった課題も浮き彫りになっている。
「中古住宅は資産にならない」という通念を乗り越えられるのか──それが今後の日本の住宅政策の分水嶺となる。