2025年、世界がふたたび保護主義と経済ナショナリズムに傾く中、米国との関税交渉の場で日本だけが蚊帳の外に置かれているという現実がじわじわと浮き彫りになってきた。これは偶然の結果ではなく、構造的な“無関心”と“政治不在”の積み重ねによるものであり、私たちの暮らしと未来にも確実に影響を及ぼしている。
なぜ今、関税交渉が問題になるのか
トランプ政権の再登場により、2025年から米国は再び高関税戦略へと大きく舵を切った。すでに中国に対する懲罰的関税が段階的に強化されており、メキシコ、インド、EU、カナダといった主要国との間では再交渉が次々と進展している。
- 中国:新たな経済協定を締結し、半導体・医薬品分野での対米輸出優遇措置を部分的に獲得。
- イギリス:FTAの第2次改訂合意で関税一部撤廃。
- インドとEU:交渉終盤に入り、7月中の合意も視野。
- カナダ:デジタル課税の撤回を条件に、対話が再開された。
こうした中、日本は依然として明確な交渉テーブルにすら着けていない。
日本の対米輸出構造──どれほど依存しているのか
以下は、2024年時点での日本の貿易依存度を示したものである。
【主要国・地域への輸出比率(2024年)】
- 米国:17.8%
- 中国:18.4%
- EU:11.2%
- ASEAN:14.5%
日本の対米輸出は中国に次ぐ第2位であり、特に自動車・部品、精密機器、工作機械などが大きな割合を占める。このような状況下で米国が関税政策を変更すれば、日本の産業界は即座に価格競争力を失うリスクを抱える。
赤沢氏は何をしに渡米したのか
赤沢亮正経済再生担当相は2025年6月26日に訪米し、6月30日に帰国したが、実際に行ったのは米商務省のラトニック長官との会談であった。交渉の場における実質的な進展は得られず、財務長官のベッセント氏との面会は実現しなかった。
一連の動きに対して、「何をしに行ったのか」という疑問の声が政府・与党内からも上がっており、交渉の本気度や準備不足が問われている。外交日程を組めないのは官僚の問題ではなく、政治の側が動いていないからだという批判も根強い。
ラトニック氏とは3回のうち2回が電話会談だったことから、米側が日本を交渉相手と見なしていない現実が透けて見える。
一体何のために渡米したのか――日本国内でも疑問の声が上がっている。
なぜ他国は交渉できているのか
前述のように、中国、イギリス、インド、EU、カナダといった国々は次々と交渉に入り成果を挙げている。唯一の例外が日本である。
この背景には、官僚任せの形式的な外交に終始する体質もあるが、根本的には政治的決断と行動力の欠如がある。
安倍政権下であれば、首脳間の直接交渉や迅速な妥結が期待できた。現在の政権には、官僚任せではない「政治力による突破力」が決定的に欠けている。
なぜ日本国内で議論が起きないのか
このような事態にもかかわらず、日本のメディアや国会でこの問題が大きく取り上げられることはない。それは次のような要因が考えられる:
- 「対米関係は良好」という根拠の薄い安心感
- 輸出企業が交渉リスクを恐れ、政府に圧力をかけない
- 政府が“波風を立てないこと”を優先しすぎている
こうして、経済安全保障という視点が欠落したまま、国益が静かに削られていく構造が温存されている。
「取り残される日本」が将来に及ぼす影響
短期的には、関税率の違いにより日本企業の商品だけが価格競争で不利になる可能性がある。中長期的には、次のようなリスクが予想される:
リスク項目 | 内容 |
---|---|
投資誘導力の低下 | 米国市場での採算が悪化し、日本企業が現地生産に転換、国内空洞化が進行 |
通商交渉力の低下 | 他国が実績を積む中、日本の外交発言力が低下 |
同盟国としての信頼毀損 | 米側から「協力姿勢に欠ける国」と見なされ、安全保障分野にも波及 |
こうした影響は、国民一人ひとりの暮らしにも確実に跳ね返ってくる。
日本はどう立ち向かうべきか
解決策は、決して“アメリカに盾突け”という話ではない。必要なのは、
- データに基づいた利害調整
- 国益に照らした交渉戦略の再設計
- 世論を巻き込んだ議論の活性化
である。
外交とは、空気を読むことではなく、国のために空気を変えることであるはずだ。
このままでは、私たちの未来と国益が、誰にも知られぬまま失われていく。
【追記】
トランプ大統領は7月1日、大統領専用機エアフォースワンでのインタビューで、「7月9日以降、交渉が決裂すれば日本製品に30〜35%の関税を課す可能性がある」と述べました。