消えゆく地方鉄道とバス──人口減少時代の現実

2025年現在、日本各地で地方鉄道や路線バスの廃止が相次いでいる。背景には人口減少と高齢化、利用者減、そして自治体の財政難がある。

たとえば北海道のJR北海道では2010年代から「単独維持困難線区」の発表が続き、多くのローカル線が姿を消した。2024年には四国や九州でも同様の動きが広がり、地方交通の「空白地帯」が現実となりつつある。

特に象徴的なのが、過疎地だけでなく中規模都市でも鉄道やバス路線の廃止が進んでいる点だ。人口10万人規模の都市でも赤字ローカル線や赤字バス路線が「見直し」の対象になる時代が訪れている。

「移動手段がない」町の実態

では、公共交通がなくなると地域社会はどうなるのか。

一言でいえば「移動難民」が生まれる。

高齢者や子ども、車を持たない人々は、病院や買い物に行くことすら困難になる。事実、地方の町村では「車に乗れない高齢者の買い物難民」「通学困難による学力格差」「高校生の進学意欲低下」など、深刻な影響が報告されている。

2023年に総務省が行った「地域公共交通に関する実態調査」でも、全国の町村のうち約4割が「交通空白地帯」を抱えているとされる。これは単なる過疎地の話ではなく、平野部や郊外住宅地でも起きている。

公共交通維持の難しさ──自治体の苦悩

公共交通が廃止される背景には、維持コストの問題がある。

例えば地方鉄道では、1人あたりの輸送コストが1万円を超えるケースも珍しくない。バスも同様で、乗客1人あたり数千円の赤字が発生している場合がある。

自治体は赤字補填を行っているが、その財源は限られている。学校・福祉・インフラ維持など、他の優先課題もある中で、すべての路線を守り続けるのは現実的でない。

「年間5億円の赤字路線を維持するか、それを福祉に回すか」という選択に迫られる首長も少なくない。

代替交通の模索──デマンドタクシーと自動運転

公共交通が消える中、全国の自治体では「代替交通」の模索が続いている。

その一つが「デマンド交通」だ。事前予約制の乗り合いタクシーやミニバスで、利用があった時だけ運行する方式である。すでに約1500の自治体が何らかの形で導入している。

また、近年注目されているのが自動運転技術だ。完全自動運転車を活用したコミュニティ交通が実証実験段階から実用化に移行しつつある。ただしコストや安全性の課題は依然残る。

都市部ではシェアサイクルや電動キックボードも利用が広がっているが、地方の高齢者社会ではあまり現実的ではないという指摘もある。

人口減少社会で求められる新しい公共交通のかたち

日本が直面している課題は、単に「路線を残すか廃止するか」という二元論ではなく、「持続可能な移動手段をどう再構築するか」である。

そのためには次のような発想転換が求められる。

  • 「鉄道ありき」「バスありき」をやめ、モビリティ全体で考える
  • 行政・民間・地域住民が連携した交通デザイン
  • ICT技術を活用した予約システムや需要予測
  • 地域限定タクシー許可など規制緩和の活用

2025年6月には国土交通省が「地域公共交通再構築法(仮称)」の制定に向けた検討を始めた。今後は単純な補助金頼みから脱却し、官民協働の仕組みづくりが焦点となりそうだ。

「移動の自由」は権利か──公共交通を守る意味

最後に確認しておきたいのは、「移動の自由」が社会的権利といえるのか、という点だ。

交通インフラは経済活動だけでなく、教育・医療・福祉などあらゆる生活の基盤である。公共交通を単なる採算ベースで判断してよいのか──その議論は避けて通れない。

すでにドイツやフランスでは「地方交通無料化」や「公共交通権」という考え方が政策に盛り込まれ始めている。日本でも今後、単なる効率論だけでなく、「生活の質」を重視した交通政策が問われるだろう。

地方鉄道やバスが消える町は、単に「不便」になるのではない。その町の未来そのものが変わってしまう可能性がある。だからこそ、私たちは改めて考える必要があるのだ──「移動の自由」をどう守るかを。