SNS時代の新しい観光スタイル
かつて観光といえば、寺社仏閣や名勝地を静かに楽しむものでした。しかし、今では「インスタ映え」「TikTok映え」など、SNSへの投稿を目的とした観光行動が一般的になっています。
映える観光は、一見すれば地方活性化や経済効果につながるポジティブな要素もあります。しかし、その裏で思わぬ問題が生じていることをご存じでしょうか?
映える観光とは何か?
「映える観光」とは、次の特徴を持つ行動スタイルです:
- SNS投稿を目的とした観光地選び
- 一瞬の写真・動画のために現地に訪れる
- 景観よりもカメラアングルを優先
- ハッシュタグやバズ狙いの行動
旅行先を選ぶ基準が「SNS映えするかどうか」に偏り、ガイドブックや歴史的背景よりも見た目や雰囲気が重視される傾向が強まっています。
増える“撮影トラブル”とマナー問題
SNS観光ブームが進む中で、各地で問題が報告されています。
具体例1:京都・嵐山
竹林の小径はインスタグラムでも人気スポットですが、
- 竹に名前を彫る
- 撮影目的で車道へ立ち入り
- 大声で動画撮影
といった迷惑行為が問題化しています。
具体例2:長野・御射鹿池
湖面に映る紅葉で有名ですが、三脚やドローンによる撮影で植生が踏み荒らされ、池そのものの生態系が壊れつつあります。
具体例3:住宅街での“裏スポット”撮影
近年は「人があまり行かない映えスポット」も人気ですが、
- 民家の前で勝手に撮影
- 無断駐車やごみ投棄
- 住民トラブル
など、地域住民の生活を脅かす事例も増加しています。
観光地の対応──規制と試行錯誤
こうした問題に対し、各自治体や観光協会では対策を進めています。
- 撮影禁止エリアの設定
- SNS用写真スポットの公式設置
- ボランティアによるマナー啓発
- 入場制限・有料化
例えば、富士山が見える某絶景スポットでは無断立ち入りが相次ぎ、2024年から完全閉鎖となりました。
それでも完全な解決には至っていません。SNS拡散のスピードに、行政側が追いつけない状況です。
本末転倒──“映える”ために風景を壊す矛盾
映える観光の最大の矛盾は、「美しい風景を求める行動が、その風景を壊してしまう」という点です。
- ドローン撮影による自然破壊
- 人気過熱によるゴミ問題
- 自然環境や文化財の劣化
「誰もいない絶景」を撮りたいがために、夜中や早朝に押しかける人までいますが、それもまた新たな騒音・迷惑問題を生んでいます。
なぜ私たちは“映え”にこだわるのか?
背景には、次のような心理があると考えられます。
- SNSで「いいね」や再生数を稼ぎたい承認欲求
- 自己表現手段としての映像・写真
- 仲間内での優越感や話題作り
現代人にとって、旅の目的そのものが「誰かに見せるため」にすり替わりつつあるとも言えるでしょう。
これからの観光のあり方とは?
では、SNS時代の観光はどのようにあるべきでしょうか?
- 写真を撮る前に、その場の空気を感じる
- “撮影禁止”を守ることも旅の作法と考える
- 地域との関わりや学びを重視する観光へ
- 「映え」よりも「心に残る体験」を大切にする
実際、地方自治体では「写真禁止」を逆手に取ったPR戦略も出始めています。「ここは撮れません、心で感じてください」と掲げる観光地も増えつつあります。
“映える”より“残す”観光へ
SNSは便利なツールですが、使い方次第で地域や自然に大きな影響を及ぼします。
観光とは本来、その土地や文化に敬意を払う行為。
“映える”だけを求めるのではなく、次の世代に残すべき風景や伝統を守る──そんな意識こそが、今求められているのではないでしょうか。