デジタル経済の波に乗り遅れる日本
ビットコインやイーサリアムに代表される暗号資産(仮想通貨)は、もはや一過性のブームではない。米国を中心とした西側諸国では、すでに「新たな金融インフラ」として制度整備が進められ、投資・決済・送金の手段として定着しつつある。一方、日本では制度や税制の不備から個人投資家の活用が広がらず、グローバルなデジタル経済の潮流に取り残されつつあるのが現状だ。
世界と逆行する日本の課税制度
日本の暗号資産に対する課税は、他国と比べて極めて厳しい。現在、日本では暗号資産の売却益や他の仮想通貨との交換益は「雑所得」として総合課税され、最大で55%(所得税45%+住民税10%)が課せられる。
これに対し、米国やドイツ、シンガポール、ポルトガルなどでは「キャピタルゲイン課税」または「非課税」扱いが主流だ。たとえばドイツでは1年保有した暗号資産の利益は非課税となり、シンガポールではそもそも個人のキャピタルゲインに対する課税がない。
このような税制の違いは、グローバルな投資家や起業家にとって決定的な差となる。日本では暗号資産で得た利益を使うにも、含み益のあるまま保有するにも、常に「課税リスク」と隣り合わせであり、健全な市場育成を阻んでいる。
「少額なら申告不要」の誤解とリスク
よく耳にする「数万円程度の利益なら確定申告はいらない」という話は、厳密には誤解を招く可能性がある。
一般的な給与所得者であれば、暗号資産による利益が年間20万円以下であれば確定申告は不要とされている。ただしこれはあくまで「申告義務が免除されるライン」に過ぎず、住民税の申告が別途必要となる場合や、他の副収入との合算で申告義務が発生することもある。
税務署からの追及やペナルティを避けるためにも、年間利益が少額であっても、帳簿管理と申告の準備は欠かせない。
金融庁の分離課税構想とアメリカの影響
2025年6月6日、日本の国会で改正資金決済法が成立した。破綻時の資産保全を目的とした制度ではあるが、同時に金融庁が暗号資産に対して「分離課税(20%)」の導入を検討していると報道された。
この背景には、米国での暗号資産法制の進展、とりわけトランプ政権以降の規制緩和の流れがある。トランプ氏は暗号資産支持を明言し、選挙資金にも受け入れており、米国では企業・個人問わず保有・活用が一般化しつつある。
日本の政策転換は、その動向を受けた「外圧的」なものと見る向きもある。
サトシ・ナカモトと日本のジレンマ
ビットコインの発明者とされる「サトシ・ナカモト」は日本人名を名乗っていたが、その正体はいまだ不明である。一部では、日本の天才プログラマー金子勇氏(ファイル共有ソフト「Winny」の開発者)をサトシ本人とする説も根強い。
金子氏は2013年に亡くなっており、ビットコインの初期ウォレットが一度も動いていない理由としても符合する。しかし、ビットコインの開発は英語圏中心に進んでおり、実際の開発・普及は米国が主導している。
たとえ創始者が日本人であったとしても、日本がこの「21世紀最大の金融インフラ」に乗り遅れていることは否定できない現実だ。
私たちにできること
暗号資産の未来を形づくるのは、制度でも国でもなく「使う人」である。日本が真にデジタル経済の担い手となるためには、まず法制度の見直しと、納税者としての正しい理解が欠かせない。
個人としては、税務リスクを理解したうえで戦略的に暗号資産を活用すること、そして制度改革の動向に関心を持つことが求められる。日本が再び「暗号資産先進国」として世界の舞台に立つには、国民の声と選択が大きな鍵を握っている。