はじめに──止まらぬ電気代高騰に戸惑う家庭

「最近、電気代が異常に高い」「前年と同じくらい使っているのに請求額が倍近い」──多くの家庭で、こうした声が聞かれるようになって久しい。2022年以降、電気料金の上昇は家計を直撃し、特に冬場や夏場の冷暖房使用時には、その影響が如実に表れる。いったいなぜ、ここまで電気代が高くなったのか?そして、今後の見通しはどうなるのか?本記事では、電気料金高騰の背景とその仕組み、さらには今後の展望について分かりやすく解説する。

1. 電気料金の仕組み──基本料金と燃料費調整制度

まず、電気代の構成を簡単に整理しよう。家庭向け電気料金は、主に以下の三つで構成されている。

  • 基本料金:契約アンペア数に応じた固定料金。使用量にかかわらず毎月一定額がかかる。
  • 電力量料金(従量料金):使った電力量(kWh)に応じて課金される。
  • 燃料費調整額:電力会社が火力発電に使う燃料(LNG、石炭、原油など)の価格変動を反映した調整金。

特に問題となっているのは、燃料費調整額の急上昇である。ロシア・ウクライナ戦争をはじめとする国際情勢の悪化により、燃料価格が高騰。それに伴い、調整額が大幅に増加した。

2. 国際エネルギー価格の高騰──天然ガスと原油の影響

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、世界のエネルギー市場に大きな動揺を与えた。ロシアは世界有数の天然ガス・原油供給国であり、欧州を中心に供給網が混乱。日本もまた、LNG(液化天然ガス)などの燃料価格が高騰した余波を受けた。

さらに、円安がこの状況に拍車をかけた。日本はエネルギーの約90%を海外からの輸入に頼っており、為替が1ドル130円を超える水準まで進行したことで、実質的な調達コストが跳ね上がった。

燃料価格が上がれば、当然その分のコストは消費者に転嫁される。これが燃料費調整制度の根本的な仕組みであり、価格高騰時には電気代が「連動して」高くなる構造になっている。

3. 再エネ賦課金──脱炭素政策の「見えない負担」

忘れてはならないのが、**再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)**の存在だ。これは、再エネで発電された電力を電力会社が一定価格で買い取る制度(FIT制度)を支えるため、全家庭・事業者が支払う追加料金である。

この再エネ賦課金は、年々上昇傾向にある。2024年度は1kWhあたり1.4円程度が上乗せされており、月300kWhを使用する家庭では、月420円程度の負担になる。これは「環境のため」とされながらも、実際には電気代に上乗せされている“隠れた増税”とも言える。

4. 規制料金と自由料金──大手電力vs新電力の攻防

電力自由化によって、小売電気事業者(いわゆる「新電力」)が市場に参入し、価格競争が促進された。だが、2022年以降の燃料高騰は、新電力に深刻な打撃を与えることとなった。

自由料金は市場価格に連動しており、電力卸売市場(JEPX)での価格急騰により、新電力は供給価格を維持できず、相次いで撤退・倒産した。一方、東京電力など大手電力会社が提供する「規制料金(従来プラン)」は、国の認可制によって一定の価格抑制がなされていたが、それも2023年以降、段階的に値上げが認可されている。

つまり、もはや「どこに乗り換えても安くはならない」時代に突入したと言える。

5. 電力需給のひっ迫と老朽化インフラの現実

また、見過ごされがちなのが国内電力インフラの老朽化と需給ひっ迫の問題である。多くの火力発電所は老朽化が進んでおり、新設や維持管理にかかるコストも上昇中。加えて、気候変動による猛暑や寒波の頻発により、電力需要が一時的に急増するリスクも高まっている。

電力会社は供給余力を確保するための「容量市場」や「需給調整市場」への対応が求められており、こうした制度コストも最終的に料金へ反映される。

6. 補助金と値上げのいたちごっこ

政府は2023年から「電気・ガス価格激変緩和対策事業」として、一定の補助金を通じて電気代の負担軽減を図ってきた。しかし、この補助金も2025年にかけて段階的に縮小・終了する方針が打ち出されている。

これにより、電気代は再び一段と上昇する可能性がある。値上げ → 補助金 → 補助金終了 → 再値上げ、という「いたちごっこ」が続く中、家計や中小企業の経営への影響は深刻だ。

7. 今後の見通し──「自衛」が求められる時代へ

今後の電気代について、いくつかのシナリオが考えられる。

  • 国際燃料価格の安定化:中東・欧州の地政学リスクが収まれば、一時的に電気代が下がる可能性もある。
  • 円高への転換:為替レートが是正されれば、燃料輸入コストの低下により、電気代の抑制要因となる。
  • 再エネの拡大と技術革新:コストの安い再エネ(特に太陽光・風力)が安定供給できるようになれば、中長期的な電気料金の低下につながる。

とはいえ、短期的には「電気代の高止まり」が続くと見られており、家庭や企業側での自衛的対策が不可欠である。たとえば、

  • 電気使用の見直し(LED化、待機電力カット、エアコン設定温度の工夫)
  • 自家消費型太陽光発電の導入
  • 蓄電池やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の活用

などが現実的な選択肢となる。

おわりに──“エネルギーの価格”と向き合う時代

電気は、もはや「安くて当たり前」の存在ではない。国際情勢、為替、環境政策、インフラ維持、制度設計──あらゆる要素が複雑に絡み合い、その影響が私たちの家庭に直接降りかかっている。

今後は「使わない節電」ではなく、「賢く使う省エネ」へとシフトする意識が必要だ。そして同時に、日本のエネルギー政策そのものが、国民の生活水準に直結する時代に入ったことを忘れてはならない。