好きな科目が「将来」を決める時代へ

かつて進路選択とは「将来安定して稼げる仕事は何か」「親が安心できる職業は何か」といった、外部の期待や経済合理性を基準に行われるものでした。医者・弁護士・公務員といった“正解”が存在し、その“正解”に近づくために「得意ではないけど数学を選ぶ」「本当は美術が好きだけど我慢する」といったケースは珍しくありませんでした。

しかし今、そうした“正解主義”の終焉とともに、「推し科目=人生の羅針盤」と考える若者が増えています。自分が心から興味を持てる科目を軸に進路を考えるという、新たな学びの潮流が広がっているのです。

SNSやYouTubeでは、「日本史オタクの高校生が博物館学芸員に」「数学が好きでAI研究者になった」「中学生の頃から理科推しで宇宙開発へ」といった事例が多数シェアされており、「好きなことを突き詰めた先に仕事がある」ことを体現する若者たちが可視化されています。

「推し科目」とは何か?

そもそも「推し科目」とは、学校教育の中で自分が一番ワクワクする科目、授業の時間が待ち遠しいと感じる科目のことを指します。たとえば数学の難問を解くことに快感を覚える、古文の言い回しに美を感じる、社会科で地政学を知るとニュースの見方が変わる──そんな体験の積み重ねが、「自分にとっての推し科目」を形づくっていきます。

「好きな科目なんてない」「苦手を克服することが進学の近道」という固定観念は徐々に過去のものとなりつつあり、Z世代やα世代の中には「自分の興味を最優先する」進路観を持つ人が増えています。とりわけ「好きなことを仕事にしたい」「嫌いなことはやりたくない」といった価値観が定着しつつある今、“推し科目”は単なる学校の成績を超えて、人生の指針にまでなっているのです。

「学歴より学問」志向が高まる理由

進路選択の価値観が変化している背景には、日本社会における「学歴神話」の崩壊が挙げられます。かつては「偏差値の高い大学=就職に有利」という方程式が成立していましたが、近年では高学歴であっても就職が難しかったり、逆に高卒でも起業・活躍している人が数多くいます。

就職市場でも「何を学んだか」「どんな経験をしてきたか」が重視される傾向が強まり、「大学名」や「学部名」よりも「個人の専門性」や「情熱の深さ」が評価されるようになりました。たとえば理系ならAI・データサイエンス分野での実践力、文系でも国際関係・教育・ジャーナリズムなどでの実績が求められる時代です。

そうした中、「自分の“好き”を突き詰めた方が結果として力になる」「偏差値よりも熱意と探究心がカギ」と感じる若者が増えているのです。これは裏返せば、“推し科目”がそのまま「武器」になるという社会的証明でもあります。

“推し科目”ベースの進路選択はどう変えるか

“推し科目”を軸に進路を考えると、従来の「偏差値主義」とはまったく異なる思考プロセスが生まれます。

1. 「行きたい大学」より「学びたいテーマ」から逆算する

たとえば地理が好きな高校生は、「世界中を飛び回って地形や文化を調べたい」という願望から、文化人類学や国際協力の分野に目を向けます。結果的に、大学選びも「知の探究ができる場所」として調べるようになり、受験勉強も納得感があるものになります。

2. 理系と文系をまたいだ越境的な学びへ

現代の学問は境界があいまいです。「心理学×デザイン」「生物学×情報」「文学×AI」など、“推し科目”を軸にしながらも他分野との融合が可能です。これにより、「英語が好きだけどプログラミングも楽しい」というような“二刀流”的なキャリア設計も現実的になっています。

3. 進路の最適解は「熱中できること」にある

学力ではなく「熱量」が進路を決定する──これはSNS時代ならではの選択基準です。推し科目に熱中した結果、思いもよらない進学先や就職先と出会うケースが増えています。ある高校生は歴史漫画が好きすぎて出版社の編集部に入った、という例もあります。

親や教師の“思い込み”が進路を縛る?

一方で、子ども自身が“推し科目”に夢中でも、それを「実用的ではない」と否定する大人は少なくありません。「音楽で食べていけるの?」「美術を専攻して将来どうするの?」といった発言は、本人の学びのモチベーションを奪う可能性すらあります。

もちろん現実的な助言は必要ですが、重要なのは「その興味をどう活かすか」を一緒に考える姿勢です。今や職業の選択肢は多様化し、「音楽+教育=音楽療法士」「美術+テクノロジー=VRアート制作」といった融合分野が次々と登場しています。好きな科目から人生を広げていく道は、以前よりも遥かに開かれているのです。

好きなことを学ぶ“進路革命”はすでに始まっている

文部科学省も近年、「個別最適な学び」や「探究学習」の重要性を強調しており、高校・大学では生徒の関心に応じた選択科目やプロジェクト型学習が導入されています。進学校でも“推薦型入試”や“総合型選抜”の活用が進み、「学力テストで勝ち抜く」時代から「自分をどう表現するか」へとシフトしています。

これはまさに、“推し科目”がキャリアの中心になる時代の到来を意味します。自分の好きなことに向き合い、他者と差別化された知識や視点を育むことが、大学進学や就職において最大の武器となるのです。

まとめ:好きなことに誇りを持てる社会へ

“推し科目”で人生を選ぶ──それは今後の日本社会における進路観の中心になっていくでしょう。

「好き」を追い続けることは、時に不安も伴います。しかし、やりたくないことを無理に続けて消耗するより、自分の情熱に正直に生きるほうが、長い目で見て豊かな人生につながるのではないでしょうか。

子どもたちが「これが好き!」と堂々と言える社会、そしてその“好き”を大人が応援できる社会こそ、これからの学びの理想です。

あなたの“推し科目”は何ですか? そのワクワクが、これからの人生をきっと明るく照らしてくれるはずです。