2025年6月16日、カナダで開催中のG7サミットにおいて、日本の石破茂首相とアメリカのトランプ大統領との首脳会談が行われた。議題の中心は、自動車関税問題。25%という高関税の発動が現実味を帯びる中、日米両国の経済と外交の命運を左右する重大な交渉だった。

結果は「合意なし」。両首脳は約30分間の会談を行ったが、見解の隔たりは埋まらず、協議は今後、閣僚レベルに引き継がれることとなった。

1. 自動車関税25%という“通商爆弾”

アメリカが日本車に25%の関税を課す可能性は、以前から警戒されてきた。トランプ氏は再び「米国製造業の保護」「貿易赤字是正」を掲げており、選挙戦略としても“強硬姿勢”が際立っている。日本車は米市場での存在感が大きく、トヨタ、日産、ホンダなどが直接的な打撃を受けるのは確実だ。

仮にこの関税が実施されれば、日本の対米自動車関連輸出(完成車・部品含む)は年間で4兆円を超える打撃を受ける可能性がある。これは単なるメーカーの損失にとどまらず、全国の下請け部品企業、港湾・輸送業界、さらには雇用や地域経済にも広範に波及する。

2. 石破首相のスタンスと交渉の論点

石破首相は会談後、「双方の認識には差異があり、引き続き努力する」と述べた。トランプ大統領は輸入車に対して高い関税を課す意向を崩さず、交渉は平行線をたどった。

石破氏は従来から“安全保障と経済は一体である”という理念を掲げており、今回の会談でも「自動車産業は日本の基幹産業であり、日米の安定した関係を築くためには市場アクセスの公平性が不可欠だ」と主張した。

3. 米国側の思惑──選挙と製造業票

トランプ氏がこの時期に関税強化を打ち出す背景には、明らかに2026年の中間選挙とその後の大統領選を見据えた計算がある。自動車製造業が集積するラストベルト地帯(中西部)での支持固めを狙っており、「外国車=雇用喪失」という単純なメッセージが有権者に刺さる構図がある。

また、米国内ではEV産業振興と中国製部品排除の動きが進んでおり、日本車の扱いもその文脈で「中国経由」と見なされることがある。

4. 日本の対応と今後の見通し

関税発動が現実となれば、日本政府としてはWTO提訴や対抗措置を含めた対応が検討されるだろう。また、G7での連携を通じて「貿易の公正性」への国際的圧力を強める姿勢も必要となる。

経済産業省は早くも自動車関連業界への説明と支援策の検討に入っており、特に中小企業に対しては金融支援や輸出転換支援が課題となる。

また、2025年7月8日が「暫定的な関税免除措置」の期限とされており、今後3週間あまりの間に外交・通商両面で大きな動きが求められる。

5. 「中東」より「通商」──日本にとっての現実的な危機

イスラエルとイランの軍事衝突が国際社会を揺るがす中で、日本にとってより直接的かつ即効性のある脅威は「通商関係の不安定化」である。

石油が止まるリスクも重要だが、自動車輸出に課される重関税は、日本経済にとって即死級のダメージになりかねない。外交は戦争だけでなく、関税という“もうひとつの武器”でも展開される時代なのだ。

結語:問われる“実利外交”の力

石破首相の今回の交渉は、合意なき幕引きとなった。だが、それは失敗ではなく“本番前の前哨戦”である。7月8日までの残された時間で、いかに実利を確保するか。

米中露がそれぞれ覇権を争う中、日本が生き残るためには、声高な理念よりも、緻密で粘り強い交渉と世論の支持を背景にした「実利外交」が求められる。その成否は、まさにこれから問われていく。