はじめに──政局より深刻な「8月1日危機」
2025年8月1日、アメリカは対日輸入品の一部に対し最大25%の関税措置を発動する。主な対象は日本の主力輸出産業である自動車、工作機械、半導体関連製品など。これは単なる経済政策ではない。日米通商関係の根幹を揺るがす“通商敗戦”の入り口である。
国内では参院選の余韻や石破首相の続投、新勢力の動向ばかりが報じられているが、本当に報じるべきはこの関税措置と日本政府の無策である。
誰も止められなかった「25%関税」
バイデン政権からトランプ陣営まで、アメリカ国内では「対日貿易赤字の是正」と「経済安全保障の名目」のもと、対中だけでなく対日制裁関税も正当化する論理が広がっていた。
日本政府はそれを察知していなかったわけではない。それでも、外交的な交渉アプローチが皆無に等しかったのが実態だ。
- 米国通商代表部(USTR)との正式交渉は停滞
- 外務省は「財務省・経産省の所管」と責任転嫁
- 経産省は選挙期間中の「政治判断待ち」として対応を遅らせた
結果として、日本は**“戦わずして敗れた”**形となった。
ベッセント財務長官の来日と「関税スルー」
7月中旬、米財務長官ベッセント氏が来日したが、記者会見も非公開会談もなく、関税問題は一切議題に上がらなかった。これは「通商問題は我々の管轄外」という米国の明確なメッセージだ。
日本側もこれに何ら対応せず、訪日を外交カードとして活用することすらできなかった。外務・財務・経産の三省庁が縦割りで動いた結果、交渉の司令塔が不在となったまま、米側の決定を受け入れるしかない状態に追い込まれている。
ピストン赤沢の“空転外交”──8回目の訪米に残された時間
経済再生担当相・赤沢亮正氏、通称“ピストン赤沢”は2025年1月の就任以来、7回の訪米をこなしてきた。その軽快なフットワークは評価されたが、結果は伴っていない。
- 過去7回の訪米で、関税問題に具体的進展なし
- 米USTRとの協議が事務レベルにとどまり、政治的決着をつけられず
- 8回目の訪米でも、「スタートアップ協力」「気候ファイナンス」が中心議題
もはや“訪米の回数”ではなく、“関税を止められるかどうか”が唯一の評価基準となる。
この8回目の訪米は、日本にとって最後の外交カードである可能性が高い。だが、現状の調整内容を見る限り、関税問題は再び「議題に入らなかった」で済まされる恐れが強い。
関税の現実──家計・雇用・産業への打撃
25%という関税率は、日本企業にとって値上げか利益圧縮かの二択を迫る。特に自動車産業では、北米生産回帰圧力が強まり、日本国内の部品供給網や関連中小企業に打撃が及ぶ。
- 製造業からの国内投資減少
- 中小企業の下請け契約減
- 雇用不安の増大と地域経済の沈下
加えて、為替が円安方向に動けば、「円安+関税」のダブルパンチとなり、輸入物価のさらなる上昇→実質賃金の低下→個人消費の冷え込み、という悪循環が想定される。
“通商敗戦”は始まっている
選挙後の政局に注目が集まる一方で、本当に国民生活を揺るがす危機は、静かに、確実に進行している。それが「通商敗戦」という現実である。
ピストン赤沢が8回目の訪米で真の交渉を実現できるのか。
石破政権は経済主権を守る覚悟があるのか。
そして私たちは、外交敗北によるコストをどこまで許容するのか──
8月1日は“選挙の次の政治”ではなく、“経済の現実”が国民に襲いかかる日になるかもしれない。
※追記(2025年7月23日現在)
米トランプ大統領は、日本との間で「関税を25%から15%に引き下げる合意に達した」とSNSで発表した。
だが同時に、日本はコメ市場の開放と80兆円規模の対米投資を約束したとされる。
この“関税10%の引き下げ”が、本当に国益にかなう取引だったのか──
本件については次回記事で詳しく掘り下げる。